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< 連載第2回 >
美子の前に並べられた何枚もの写真。
そこにあるのは、自分の知らない女性と写る夫。
美子は震える手で写真を確認する。
何度も。何度も。何度も。
いくら見直したところで、変わらない現実がそこにはあった。
美子自身無意味なことだと頭ではわかっている。
けれど、心が現実を受け入れられずにいる。
そんな美子を静かに見守る田所。
今まで数々の依頼を手がけ、様々な依頼人と接してきた田所は、こういうときはただ静かに、美子がこの現実を受け止めるのを待たなければならないことを経験で知っていた。
「夫は、やはり浮気していたんですね。」
美子の声はわずかに震えていた。田所は、つとめて淡々とこの一週間の博の行動について
調査書をみせながら説明をする。そして最後に、
「どうなさいますか。ここから先を決めるのはあなた自身です。」と締めくくった。
美子の心は決まっていた。いや、決まっていたというよりもそれだけを望んでいるといったほうが、正しいのかもしれない。
「夫と彼女を別れさせてください。私には、どうしても夫が必要なんです。」
翌日。
厳重にセキュリティチェックをした会議室内部には、6人の男女が集まっている。
まず、今回の調査のメイン調査員・溝口隆。トリック探偵の統括とシナリオ担当の森山めぐみ。担当トリック探偵笹島修平と佐藤由希、渡辺孝雄。そして、すべてを統括し監督する田所。
彼らの前には、博と交際相手の石山美穂の資料、今回のシナリオ原稿が並べられている。
「丸山博の交際相手である石山美穂は25歳一人暮らしです。丸山博と同じ総務部勤務であり、毎週火曜日と木曜日の仕事帰りに、韓国語教室に通っています。それ以外に、週に何度か会社帰りに家近くのスーパーで買い物をしています。」
調査部の人間が調べた二人の行動や生活パターンを溝口が淡々とあげていく。
「以上になります。」
溝口の発言が終わったところで、森山が続けて話し出す。
「シナリオは皆さんのお手元にある内容で、実行しようと考えています。」
森山は、今回のシナリオの簡単な説明と担当トリック探偵の紹介を田所にむけておこなう。
森山の発言も終わり会議室内に沈黙がおちる。
全員の視線が田所に集まる。
田所は、もう一度シナリオや資料に目を通し、最終確認をする。
「そうだな、これでいこう。」
その一言と同時に、全員が自分の役割を果たすために動き出した。
「あの、すみません。」
担当トリック探偵の佐藤由希が、都内某所の韓国語教室に向かうターゲット・石山美穂に声をかける。
石山美穂は、その声にやや驚いたように振り返った。
「あ…えと。何か・・・?」
戸惑いながらも石山美穂は返事を返してくれた。
「いきなりごめんなさい。ここの教室に通おうかと思ってきたんですけど、一人で教室に入るのが不安で。そうしたら、あなたがちょうど来たから。思わず声をかけちゃったんです。」
佐藤は、申し訳なさそうな雰囲気を作りながらそう言った。
「そうなんですか。体験入学?それだったら、受付の人に言えば大丈夫ですよ。」
そう言いながら、石山美穂は佐藤を案内するように教室に入っていく。
「ありがとうございます。初心者クラスとかありますか?」
佐藤はコミュニケーションを図るため、様々な質問を投げかけてみる。
「ええ。私も入学したときは初心者向けのクラスだったけど、がんばれば上のクラスにすぐ上がれますよ」
「入門クラスが一番下で、初級・中級・上級、と分かれてるんだけど・・・」
とても人当たりのいい感じだった。
佐藤はそのまま流れにのって、入門クラスの体験入学を申し込んだ。
「どうもありがとうございます。」
佐藤は石山に丁寧にお礼を言った。石山はどうやら初級クラスのようだ。
残念ながら、佐藤に韓国語の知識は全くといっていいほど無かった。
何とか石山と同じクラスに入り、親しい関係を築いていきたいところだ。
時間割を見ると、毎週水曜のみ、入門クラスと初級クラスが同じ時間帯になっていた。
費用や手続きなど、入学要綱に目を通してみる。
「一度、会議で打ち合わせが必要かもしれない。」
様々なシナリオの可能性に考えをめぐらせながら、佐藤は教室を後にした。
連載第3回へ続く・・・
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